観光需要の回復やインバウンド客の増加に伴い、ホテル業界は再び活況を呈しています。しかし、競争の激化や人材不足、運営コストの上昇など、多くの課題も併存しています。こうした中で、いかにしてホテルの「集客」と「売上最大化」を実現するかが、経営者にとって喫緊の課題です。
本コラムでは、ホテル運営における具体的な集客戦略、売上を最大化するための手法、そして注目を集めている「ホテル運営代行」の活用方法について詳しく解説します。
目次
ホテル運営における課題とは?
ホテル経営には多くの課題があります。代表的なものを以下に挙げていきます。
【集客の不安定さ】季節やイベントに左右される需要
観光地では繁忙期と閑散期の差が大きく、稼働率が安定しないケースが多々あります。イベントや天候、世界情勢にも左右されやすく、売上の予測が難しい点が課題です。
【価格競争の激化】OTA(オンライン旅行代理店)を中心に価格比較が容易に
宿泊予約サイトでは価格比較が簡単にできるため、他ホテルより安くしなければ予約が取れない状況も発生。結果として利益率が圧迫されやすくなります。
【人手不足】慢性的なスタッフ不足と採用難
接客業務や清掃業務に従事する人材の確保が困難になっており、サービス品質の低下やスタッフの過重労働を招いています。地方では特に深刻な問題です。
【運営ノウハウの欠如】特に小規模ホテルや地方の宿泊施設に多い
開業はできても、集客・マーケティング・顧客管理といった専門知識が不足しているケースが多く、せっかくの設備や立地を生かしきれないことがあります。
これらの課題を乗り越えるためには、単なる「部屋を売る」だけではなく、戦略的かつ継続的な取り組みが不可欠です。
ホテル運営における課題を解決するために必要なこと
さまざまな課題が起こり得るホテル経営ですが、その課題を解決するために必要なことをまとめてみました。
1:稼働率と収益性のバランスを取る
多くのホテルオーナーが直面する最大の課題は、稼働率と収益性のバランスです。単純に稼働率を上げるだけでは、価格競争に巻き込まれて利益が圧迫される可能性があります。一方で、価格を維持しようとすると稼働率が下がり、固定費をまかなえなくなるリスクもあります。この状況を打破するためには、戦略的な料金設定と付加価値の創出が必要不可欠です。
2:運営会社としてのブランド力の確立
個人経営や小規模な宿泊施設では、ブランド力の不足も深刻な問題です。大手ホテルチェーンと競合するためには、独自の魅力と信頼性を築く必要があります。これには時間と専門的なノウハウが必要で、多くの事業者が苦戦している分野でもあります。
もちろん、これだけが全てではありませんが、少なくとも安定的なホテル経営を行うために必要なことです。特に稼働率や収益性のバランスを取るにしても、ブランド力を確立するにしても【集客】は必ず必要となります。さまざまな集客方法がありますが、どのようにして集客力を高めていくのか、経営者として知っておくべきことでしょう。
ホテルの集客力を高めるための具体的施策
お客様が来てくれないことには安定的かつ収益性が見込めるホテル経営を行うことができません。ここからはホテルの集客力を高めるための具体的施策について見ていきます。
施策①デジタルマーケティングの強化
近年の宿泊予約の主流は【オンライン】です。ほぼ全ての方がインターネットで予約を入れています。また、海外の宿泊客はオンライン予約という選択肢が一択の場合も少なくありません。デジタルマーケティングの強化のため、特に以下の施策が重要です。
自社サイトのSEO対策
自社サイト経由の予約は手数料が不要なため、利益率が高まります。検索エンジン対策により、自社サイトへの流入を増やすことが大切です。
SNS運用とUGC(ユーザー生成コンテンツ)の活用
InstagramやTikTokなどのSNSを通じて魅力を発信していくことです。宿泊客の投稿をリポストすることで、信頼性の高い情報発信につながります。
リスティング広告・リマーケティング広告の活用
広告で見込み客に再アプローチし、予約への導線を作ります。広告をうまく活用することで今まで訪れることのなかった新規のお客様にも出会うことができます。
施策②OTA戦略の見直し
楽天トラベルやじゃらん、Booking.comといったOTAは集客の要です。下記のような工夫が求められます。
料金の最適化(レベニューマネジメント)
曜日・シーズンごとの価格設定を細かく調整することで、稼働率と売上のバランスを取ることができます。
OTA内でのコンテンツ強化
写真、説明文、レビューの充実によって、他施設との差別化を図ります。
レビュー返信によるブランド強化
丁寧な返信は信頼感につながり、リピーター獲得にも寄与します。
施策③ターゲット別プランの造成
集客の不安定さを乗り越えるためには、「誰に」「何を」提供するのかを明確にし、そのターゲットに合わせたプラン設計が重要です。顧客ニーズは多様化しており、画一的なプランでは選ばれにくくなっています。明確なターゲットを設定し、その層に響く具体的なサービスや訴求を行うことで、競合との差別化と稼働率の向上が期待できます。
ファミリー層向けプラン
子ども連れの家族にとって安心・安全で快適な滞在は大きな価値です。
たとえば以下のような工夫が求められます。
- ベビーベッドや子ども用アメニティの用意
- キッズスペースの設置や親子で楽しめるアクティビティの提供
- ファミリールームの設定やコネクティングルームの提案
- 「子ども無料」や「未就学児無料朝食」などのお得感のある施策
これらにより、旅行を計画する保護者の安心感を高め、口コミやSNSでの拡散にもつながります。
インバウンド対応プラン
訪日外国人観光客(インバウンド)のニーズに応えるためには、言語対応はもちろん、文化的体験も重視されます。
- 英語や中国語など多言語対応のスタッフ配置、館内案内の翻訳
- 和室、温泉、浴衣体験など日本文化を感じられるプラン構成
- 空港送迎や翻訳アプリの貸し出しなどの利便性向上
- ハラール対応やベジタリアン食対応など宗教・文化への配慮
国によってニーズが異なるため、ターゲット国を絞った施策も有効です。
ワーケーションプラン
働き方改革の一環として広がっているのが、リモートワークと休暇を組み合わせた「ワーケーション」需要です。
- 全館Wi-Fi対応や、個室で静かに仕事ができるワークスペースの提供
- コーヒーや軽食付きのプラン、長期滞在向けの料金設定
- オンライン会議用の設備(照明・背景)やプリンタ貸出サービス
- 仕事後の癒しとして温泉やマッサージサービスのパッケージ提案
- 平日や閑散期にも利用が見込めるため、稼働率の平準化に貢献することができます。
このように、明確なペルソナ設定とそれに沿ったサービスのパッケージ化は、集客の安定化と顧客満足度の向上を両立させる有効なアプローチです。さらに、実際の宿泊客からのフィードバックを基にプランを柔軟に改良することも、ホテル経営成功の鍵となります。
ホテル経営|売上最大化のための取り組み
売上を最大化するには、単に宿泊数を増やすだけでは不十分です。一人ひとりの顧客単価を高め、リピート利用を促す仕組みが求められます。ここでは、ホテル運営において効果的な「アップセル施策」や「顧客データの活用」、そして「差別化されたサービス提供」の具体策をご紹介します。
アップセル・クロスセルの導入
ホテルの売上を効果的に向上させるには、「稼働率」だけでなく「客単価の向上」にも注目する必要があります。特に、顧客の滞在中や予約時に自然な形で上位プランや追加サービスを提案する「アップセル」や「クロスセル」は、売上増に直結する重要な施策です。無理な売り込みではなく、顧客にとって価値ある提案として受け取ってもらえる工夫が求められています。
具体的な施策(例|ホテル経営におけるアップセル・クロスセル
- チェックイン時のアップグレード提案
- 朝食・夕食の追加販売
- アニバーサリーオプション(ケーキ、花束など)
「来てくれたお客様にどれだけ満足してもらえるか」が、1人あたりの単価を高める鍵です。顧客にとって魅力的な提案であれば、自然にオプションを選んでもらえるようになります。そのためには、スタッフが商品・サービスの魅力を正しく理解し、顧客の状況や嗜好に応じた提案ができる体制づくりが欠かせません。
顧客データの活用
売上最大化を目指すうえで、もっとも効率的なのが「リピーターの育成」です。新規顧客の獲得には広告費や販促費がかかりますが、すでにホテルを利用したことがある顧客は、その体験を基に再訪してくれる可能性が高く、コストパフォーマンスの高いターゲットといえます。そのためには、顧客データをもとにパーソナライズされた対応を行うことが重要です。
リピーター獲得のために、顧客情報を活用して以下を実施します。
- バースデーメールなどのCRM施策
- 前回の滞在内容を踏まえた提案
- 会員制度の導入による囲い込み
顧客データを活用することで、「売りたい商品を押しつける」のではなく、「その人にとって価値のある提案」が可能になります。結果として、顧客満足度とLTV(顧客生涯価値)の向上につながり、長期的な売上の安定化が見込めるでしょう。
設備やサービスの差別化
宿泊予約サイトなどで簡単に価格比較ができる時代において、価格競争だけで勝ち抜くのは難しくなっています。そこで注目すべきは、「このホテルでしか体験できない価値」を提供することです。設備やサービスに独自性を持たせることで、価格以外の理由で選ばれるホテルを目指すことが可能です。顧客の記憶に残る特別な体験が、リピート率の向上にも直結します。
- サウナ・露天風呂などの付加価値
- 地域食材を使った料理の提供
- 無料送迎・アクティビティの提供
他施設では味わえない体験を提供することが、価格競争に巻き込まれないための策となります。価格勝負になればなるほど、大手チェーンや都市部の大型施設が有利です。だからこそ、独自の体験価値を提供することが、中小規模ホテルにとっての重要な戦略です。小さな差別化が口コミやSNSで拡散されることで、思わぬ集客効果を生むこともあります。
その他の施策
収益性分析とKPI管理
売上最大化を実現するためには、詳細な収益性分析が不可欠です。RevPAR(1室あたり売上)、ADR(平均客室単価)、GOP(粗利益)などの指標を定期的にモニタリングし、改善点を特定する必要があります。当社では、クライアント物件において月次でのKPI分析を実施し、課題の早期発見と対応策の提案を行っています。
繁忙期と閑散期の戦略的運用
宿泊業の特性上、需要の季節変動は避けられません。繁忙期には価格を最適化して売上を最大化し、閑散期には長期滞在プランやワーケーション需要の取り込みなど、需要創出に努めることが重要です。また、清掃やメンテナンスなどの施設管理業務を閑散期に集中させることで、効率化とコスト削減も実現できます。
プロに任せるという選択肢|「ホテル運営代行」とは?

集客や運営の課題を抱える施設が注目しているのが「ホテル運営代行」です。
ホテル運営代行の委託方式と報酬形態について
「ホテル運営代行」とは、ホテルのオーナーが建物や設備を所有しつつ、実際の運営(集客、予約管理、清掃、フロント業務など)を専門会社に委託することです。ホテル運営代行を依頼する際には、「どの範囲を任せるか」と「どのように費用を支払うか」という2つの重要なポイントがあります。
どの範囲を任せるか|業務について
ホテル運営代行の業務としては、業務委託の方式には大きく分けて2つあります。
「一部業務の委託」と「運営業務をすべて任せる(いわゆる“マルっとお任せ”)」の2つです。一部委託では、例えば清掃業務やフロント対応、予約管理など”特定の業務のみ”を代行会社に任せる形です。一方で、運営に関わるすべての業務(人材の採用・教育から売上管理、マーケティング施策まで)を一括で任せる方式もあります。オーナー側の手間を大きく減らせる点が、この方式の大きなメリットといえるでしょう。
ホテル運営代行は、業務委託としてまるっと運営をお任せするというのが一般的ではありますが、希望によって選び、交渉することも可能な場合があります。
どのように費用を払うか|委託料について
次に、ホテル運営代行会社への報酬の支払い方法です。主に以下の2種類があります。
-
固定報酬型:毎月決まった金額を支払う方式です。収支が安定しやすく、予算の見通しが立てやすいのが特徴です。
-
売上変動型(成果報酬型):ホテルの売上に応じて支払額が変動する方式です。売上が増えれば支払う金額も増えますが、運営代行会社も積極的に売上向上に取り組むインセンティブが働くため、パートナーとしての関係性が築きやすいという利点があります。
どの委託方式・報酬形態を選ぶべきかは、オーナー自身の運営への関与度合いや、リスクの許容範囲、目指す収益モデルによって変わります。契約前に複数の代行会社と相談し、自身のホテル経営に最適なパートナーを見極めることが大切です。
ホテル運営代行のメリット
多くのホテル経営者が直面するのが、「集客が思うように伸びない」「人手が足りない」「業務が属人化している」といった運営上の課題です。こうした問題を効率的に解決し、収益性を高める手段として注目されているのが「ホテル運営代行」です。専門ノウハウを持つ外部パートナーに業務を委託することで、現場に余裕が生まれ、本来の“おもてなし”に集中できる環境が整います。
プロによる集客ノウハウの活用
OTA(オンライン旅行代理店)での上位表示施策や、SNSを活用したブランディングなど、運営代行会社は最新のマーケティング手法に精通しています。自社だけでは手が回らない集客戦略を一任できることで、安定した稼働率を維持しやすくなります。
業務の標準化・効率化
フロント業務や清掃、予約管理など、日々のオペレーションをマニュアル化・効率化し、人に依存しない体制づくりを支援します。属人化による品質のバラつきを防ぎ、顧客満足度の安定にもつながります。
人材採用・教育の負担軽減
人材不足が深刻な中で、採用から研修・定着までを一貫して支援してもらえるのは大きなメリットです。経験豊富なスタッフを確保できるため、教育にかかる時間とコストを削減でき、運営側の心理的負担も軽くなります。
収益最大化への戦略的アプローチ
客室単価の調整やキャンペーン設計、プラン造成など、データに基づいた収益改善を行います。売上の「底上げ」だけでなく、「利益率」を意識した運営に移行することで、長期的な経営の安定を支えることができます。
自力運営の限界を感じたときこそ、外部パートナーの力を借りるタイミング
ホテル運営は多岐にわたる業務を要し、すべてを自社で賄おうとすると非効率になりがちです。運営代行は単なる「外注」ではなく、経営の伴走者として戦略的に活用することが、集客・売上最大化の近道になります。「ホテルらしさ」を保ちながら、プロのノウハウで収益を高めること。その両立を実現する手段として、ホテル運営代行の導入をぜひ前向きに検討してみてください。
ホテル運営代行はどんな施設に向いているか?
- 集客がうまくいっていない
- 人手が足りない
- 宿泊業未経験だが不動産投資としてホテルを持ちたい
- 本業があり、運営に手をかけられない
このようなケースでお悩みの場合には、ホテル運営代行を活用することで、リスクを抑えながら収益を上げることが可能となるでしょう。抱え込まず相談してみることで解決策が見つかるかもしれません。
まとめ:プロ視点と顧客視点の両輪で最大化を図る
ホテル運営における「集客」と「売上最大化」は、一朝一夕で達成できるものではありません。デジタルマーケティングや顧客体験の改善、スタッフ育成、料金戦略など、さまざまな取り組みを総合的に行うことが求められます。
そして、それらをすべて自社で賄うのが難しい場合は、「ホテル運営代行」というプロの手を借りることで、より効率的かつ確実に成果を上げることが可能です。
今後の宿泊業は、「どれだけ魅力的な施設を作るか」以上に、「どう運営するか」が差を生む時代です。適切な戦略と実行力を持って、競争の中で生き残るホテル経営を目指しましょう。