自宅や実家を売却する際に3,000万円の特別控除を利用したい。
制度の内容や適用されるための要件、必要書類についても知っておきたい。
今回はそのような方に向けて、家を売却した時に使える3,000万円特別控除について詳しく解説します。
適用要件や申告に必要な書類など、利用に向けた具体的な内容を紹介するので、売却時の節税に活かすため、ぜひ参考にしてください。
目次
3,000万円特別控除とは
3,000万円特別控除とは自宅や実家など、不動産を売却することで発生する譲渡所得税の課税対象額から3,000万円を控除できる制度のことです。
不動産は高額資産であるため、売却によって得た収入に対してそのまま税金をかけると莫大な税負担が発生します。
特別控除の制度を設けることで不動産を売却した場合の税負担を軽減でき、売却のハードルを下げられるだけでなく、不動産の流通性を高めるために効果的です。
制度を利用するかどうかでかかる税金の額は大きく異なるため、3,000万円特別控除の内容を知ることは、不動産を売却する際の節税対策のためとても重要なポイントです。
3,000万円特別控除の適用要件
3,000万円の特別控除は、住んでいる自宅を売却する場合だけでなく相続した実家を売却するケースにおいても利用することが可能です。
ここでは、住んでいる自宅を売却する場合と相続した実家を売却する場合に分けて、制度を利用するための適用要件を解説します。
適用要件を満たしていないと特別控除を受けることはできないため、制度の利用を検討している人は、あらかじめ確認しておきましょう。
自宅を売却する場合
まずは、自分で購入して居住している自宅を売却する場合に3,000万円の特別控除を受けるための要件について解説します。
自宅を売却する場合、以下の要件を満たすことで3,000万円の特別控除を受けることが可能です。
売却するマイホームに現に自分が住んでいる、または以前住んでいた
特別控除を受けるためには、自宅用として購入し住んでいる、または住んでいた事実が必要になります。
あくまで居住用財産の売却を前提とした制度であるため、第三者に賃貸するための投資用不動産などは利用することができません。
引越してから3年以内の年末に売却する
もともと自宅用としていた不動産でも引越して別の物件に住んでいる場合には、3年以内に元の自宅を売却しないと特別控除を受けることはできません。
厳密には元の自宅に住まなくなってから3年後の12月31日までが適用を受けるためのリミットであるので注意しましょう。
売却相手が親族ではない
売却相手が親族以外の第三者であることも特別控除の適用要件になります。
不動産の流通性を高めることが制度の目的の1つであるため、売却相手の要件があることも覚えておきましょう。
過去3年以内に、マイホームの譲渡に関する特例を受けていない
自宅を売却する際の3年以内に買換え・交換特例など、マイホームの譲渡に関わる特例を受けていないことも適用要件となります。
ケースとしては少ないですが、類似した制度を数年以内に重複して利用することはできないため注意が必要です。
解体して更地にした場合、1年以内に売却している
自宅の建物を解体して更地で売却する場合には、解体から1年以内に売却することが特別控除を受けるための要件となります。
具体的には建物解体日から1年以内に売買契約を締結することで、特別控除の適用要件を満たすことが可能です。
売却するマイホームを過去一度も「賃貸・事業用」にしていない
3,000万円特別控除は居住用不動産だけに適用される制度であるため、過去に賃貸・事業用に使われていないことも適用要件となります。
元々、自宅として居住していても引越して第三者に賃貸してしまうと特別控除の適用要件から外れてしまうため注意が必要です。
相続した実家を売却する場合
次に相続した実家を売却する場合に、特別控除を受けるための要件について解説します。
両親が住んでいた家であれば自分が住んでいた実家ではなくても適用要件を満たすことで特別控除を受けることが可能です。
相続時の節税にもつながる制度であるため、ぜひ参考にしてみてください。
親族が亡くなるまで住んでいた家である
自宅を売却する時と同じく、相続した実家の売却で特別控除を受けるためには、両親の居住用財産であった事実が必要です。
具体的には、両親(親族含む)が亡くなるまで所有し、住んでいた家であることが特別控除の適用要件となります。
売却時点で相続人(自分)が住んでいない
売却時点で相続人である自分が住んでいないことも相続不動産の売却で特別控除を受けるための要件です。
あくまで両親の居住用財産であったことが重要なポイントであり、自分の住まいは別にあることが条件となるため注意しましょう。
売却相手が親族ではない
自宅を売却する場合と同じく、売却相手が親族以外の第三者であることが特別控除の適用要件になります。
相続した実家の使い道がない場合、親族に譲渡する選択肢もありますが、特別控除の対象から外れてしまうため注意が必要です。
相続後、3年以内の年末までに売却する
実家を相続した場合、相続して3年以内の年末までに売却することが特別控除を受けるための要件になります。
相続した不動産が遠方にある場合、処分に時間がかかりがちですが、放置が長期化すると、特別控除を受けられず、重い税負担が発生する可能性があるため注意が必要です。
売却する家を過去一度も「賃貸・事業用」にしていない
これも自宅の売却時と同じく、売却する実家が過去に賃貸・事業用に使われていないことも適用要件となります。
両親が引越して使わなくなったからといって、第三者に賃貸してしまうと特別控除の適用要件から外れてしまうため注意が必要です。
相続した家の土地・建物の名義が自分になっている
相続した家の土地・建物の相続登記が終わり、名義が自分になっていることも特別控除の適用要件に該当します。
相続された不動産は登記簿上の所有者がいない状態であるため、相続登記が終わらないと売却することはできません。
特別控除を受けるためには、相続後の手続きをスムーズに行い名義を自分に変更する必要があるため注意しましょう。
【確定申告時】3,000万円特別控除の利用に必要な書類
3,000万円特別控除を受けるためには確定申告をする必要があり、申告にはいくつか書類を準備しなければなりません。
ここでは、3,000万円特別控除を利用するために確定申告で必要な書類について解説します。
事前に必要な書類を把握しておくことでスムーズに手続きができるため、特別控除の利用を検討している人は、以下の内容を確認しておきましょう。
売った価格が分かる資料
まず、物件を売却した際の売った価格が分かる資料です。売買契約書を見れば売った価格が分かるため、まずは売買契約書を準備します。
仲介手数料や建物解体費用など、売るためにかかった費用は課税対象額から控除できるため、それらの領収書も合わせて準備します。
譲渡所得の計算は売却時の利益から購入時にかかった費用を差し引いて計算するため、まずは売却した際の書類を集めるところからスタートしましょう。
買った価格が分かる資料
次に売却する不動産を購入した時にかかった費用が分かる資料です。
購入時の売買契約書があれば物件の取得にかかった大部分の費用を把握することができます。
その他、仲介手数料やローン手数料、司法書士報酬など、購入時にかかった費用は取得費用に合算できるため、領収書を準備します。
親から相続を受けた実家など、取得費を確認できる書類がまったく残っていない場合は、概算取得費を算出して計上することも可能です。
譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)[土地・建物用]
確定申告時には、売却時と購入時の価格が分かる書類をもとに、譲渡所得の内訳書(確定申告書付表兼計算明細書)を作成して提出する必要があります。
譲渡所得の内訳書とは、いくらで売却されたのか、購入時にいくらかかったのか、売却金額から取得費用と控除金額を引いた金額はいくらか等が確認できる書類です。
確定申告書と申告内容のもととなる明細書が一緒になった書類であり、細かく大変ですが、これを作成することで特別控除の申請ができます。
詳しくは以下のURLをご覧ください。
戸籍の附票(写し)
マイホームの売買契約日の前日においてそのマイホームを売った人の住民票に記載されていた住所とそのマイホームの所在地とが異なる場合は、戸籍の附票(写し)が必要です。
戸籍の附票とは、住民票と同じように住所が記載されており、戸籍を保管している役所で発行することができます。
不動産の譲渡所得に係る課税方法
不動産を売却した際にかかる譲渡所得税は、他の給与所得や事業所得とは課税方法が異なります。
ここでは、不動産の譲渡所得に係る課税方法について、課される税率なども合わせて解説します。
確定申告の際にも必要な内容であるため、ぜひ参考にしてみてください。
分離課税
まず、不動産の譲渡所得税は分離課税で算出します。
所得税の課税方法は、給与所得などの他の所得と合算して課税対象額を算出する総合課税と特定の所得に対して単独で課税する分離課税があります。
総合課税の場合、給与所得にも適用される累進課税の税率が所得額に応じて課されますが、分離課税は、総合課税と税率が異なるため注意が必要です。
所有期間によって税率が異なる
不動産の譲渡所得税には長期譲渡税と短期譲渡税があり、所有期間によって税率が異なる特徴があります。
自宅の保有期間が5年超の場合は長期譲渡税、5年以下の場合は短期譲渡税が適用となり、以下のように税率が変わります。
内容 | 所得税 | 住民税 | 合計 |
---|---|---|---|
長期譲渡税(5年超) | 15.3% | 5% | 20.3% |
短期譲渡税(5年未満) | 30.6% | 9% | 39.6% |
長期と短期で比較すると所有期間が5年を超えるかどうかで税率が2倍近く異なることが分かります。
不動産を売却する際には、いくらで売れるかや利用できる税制度を調べることも大切ですが、所有期間についても意識する必要があります。
【併用可能】10年超のマイホームを売った時の軽減税率
最後に、3,000万円特別控除と合わせて併用できる「10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例」について解説します。
制度を利用するための適用要件や税率についても解説するので、ぜひ参考にしてみてください。
適用要件
「10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例」を利用するためには、以下の適用要件を満たす必要があります。
3,000万円特別控除の適用要件とほとんど同じであり、すべて満たせば併用も可能なので、合わせて利用を検討してみましょう。
適用税率
「10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例」を利用した際に適用となる税率は以下の通りです。
課税譲渡所得金額 | 所得税 | 復興特別所得税 | 住民税 | 合計 |
---|---|---|---|---|
6,000万円以下の部分 | 10% | 0.2% | 4% | 14.2% |
6,000万円を超える部分 | 15% | 0.3% | 5% | 20.3% |
不動産の譲渡所得税は、保有期間によって税率が異なりますが、保有期間が10年を超えると更に税率が低くなります。
「10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例」では、課税譲渡所得額が6,000万円以下の部分と超えた部分で税率が異なる低率分離課税であるため注意しましょう。
必要書類
「10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例」の申告に必要な書類は以下の通りです。
3,000万円特別控除の申告とほとんど同じですが、土地・建物の登記事項証明書が必要な点に注意しましょう。
まとめ
今回は自宅の売却時に使える3,000万円特別控除をテーマに、適用要件や必要書類などについて解説しました。
不動産の譲渡所得は高額になるケースが多く、特別控除などの制度を利用することで大きな節税につながる可能性があります。
解説した3,000万円特別控除は、不動産の売却時に利用できる所得控除制度の中で最も一般的であり利用者も多いため、ぜひ読んで参考にしてみてください。