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なぜ今、「自社運営」に限界が来ているのか?
近年、多くのホテルオーナーが自社運営に限界を感じつつあります。背景には、業界全体の環境変化とオーナー自身のリソース課題が複合的に影響しています。まずはどのような課題が浮き彫りになってきているのかを見ていきます。
慢性的な人材不足と業界全体の構造問題
まず挙げられるのが人材不足の深刻化です。ホテル業界は元々、就業者の高齢化や離職率の高さが課題でしたが、コロナ禍以降はさらに拍車がかかり、特に地方や観光地においてはスタッフの確保が困難な状況が続いています。
デジタル対応の遅れと競争力の低下
また、ITやデジタル集客への対応力の差も大きな壁となっています。OTA(オンライン旅行代理店)や自社サイトでのダイナミックプライシング、SNSを使ったプロモーションなど、専門知識と技術を要する分野は年々高度化しており、「現場の勘と経験」だけで運営を成り立たせるのは困難になっています。
経営者リソースの限界と“運営疲れ”
さらに、オーナー自身が本業との両立に疲弊しているケースも少なくありません。不動産業や飲食業を本業にしながら副業的にホテルを運営している例では、想定以上の業務負荷とトラブル対応に追われ、「気づけば運営が目的になってしまっている」という声も多く聞かれます。
このような課題が積み重なる中、外部の力を借りることでホテルの可能性を広げる「ホテル運営の外部委託(=ホテル運営代行)」に注目が集まっているのです。
外部委託という選択肢が注目される理由
「外部委託」とは、ホテル運営の一部または全部を専門の運営会社(運営代行会社やホテルマネジメント会社)に委託することを指します。業務範囲はケースによって異なりますが、フロント対応や清掃、売上管理、集客、スタッフ教育までを包括的に任せることも可能です。
注目される理由は大きく分けて以下の4つです。
- 運営の効率化
マニュアルに基づいたオペレーション、データに基づいた収益管理により、運営の「属人化」が解消され、業務の標準化と品質の安定化が期待できます。 - 売上の最大化
価格戦略、販路管理、レビュー対策など、専門の知見により集客力と収益性を高める施策を実行可能です。 - 経営負担の軽減
日々の運営業務やスタッフ管理から解放されることで、オーナーは「経営判断」に集中できるようになります。 - 将来の出口戦略への備え
将来的なホテル売却や事業承継を見据えた際、外部委託によって運営体制が整備されていることは大きな価値になります。
外部委託は「経営の手抜き」ではなく、「資産の最適活用」を図る合理的な手段として、多くのオーナーに選ばれるようになってきました。
ホテル運営代行による成功事例と失敗事例
ホテル運営の外部委託は、理論的には合理的な選択に見えるものの、実際にはその成果はケースバイケースです。うまくいけば収益の改善や業務負担の軽減といった大きなメリットを享受できますが、一方で準備不足や委託先とのミスマッチにより、かえって混乱を招くこともあります。
ここでは、業界でよく見られる典型的なケースをもとに、外部委託のメリットと注意点をよりリアルにイメージできるような「モデル事例」をご紹介します。実際の導入を検討する際のヒントとしてご活用ください。
成功事例(モデルケース):地方の老舗旅館がブランド転換で再生
たとえば、地方の温泉地にある家族経営の旅館を想像してみてください。築年数が経ち、客足が徐々に減っていたこの旅館では、オーナーが高齢化して後継者も不在。さらに、スタッフの定着率も悪く、稼働率は30~40%台で推移していました。
こうした状況を打開するため、運営の外部委託を導入。運営会社は旅館の魅力を再定義し、地域文化を活かした「古民家風旅館」へとブランディングを変更。OTAの活用を強化し、SNSでの認知向上を図るなど、販売チャネルの見直しを図りました。
その結果、半年後には稼働率が60%を超えるようになり、1年で収益は約1.5倍に改善。運営の安定化によってスタッフの定着率も上昇し、将来的には施設リニューアルによる資産価値の向上も視野に入るようになりました。
失敗事例(モデルケース):都市型ホテルでの連携ミスと混乱
一方で、都市部の中規模ビジネスホテルが外部委託を導入したケースでは、想定とは異なる結果になったこともあります。
このホテルでは、慢性的なスタッフ不足と売上の低迷から、短期間での業績改善を期待して運営を外部委託することを決断しました。しかし、導入当初から委託先との役割分担が不明瞭で、フロント業務や清掃業務の責任範囲をめぐって現場が混乱。加えて、既存スタッフとの連携不足が深刻化し、サービス品質も低下。結果として、ネット上のレビュー評価も悪化し、契約を見直す事態となってしまいました。
このような事例からは、外部委託を成功させるためには契約前の十分な準備と、現場との丁寧なコミュニケーションがいかに重要かがわかります。
モデルケースから学べるポイント
これらの事例は仮想のモデルケースですが、実際の宿泊業界でも同様の傾向や課題が多く見られます。成功するかどうかの分岐点は、「委託すること」自体ではなく、どのように委託を設計し、関係を築くかにかかっています。
外部委託を検討する際は、委託範囲の明確化、KPI設定、既存スタッフとの連携方針などを事前に整理し、委託先との対話を重ねることが大切です。
ホテル運営代行サービスを導入するタイミングとサイン
では、どのようなタイミングで「ホテル運営代行(外部委託)」を検討すべきなのでしょうか。以下のようなサインが見られる場合、早期の見直しが望まれます。
ホテル運営代行サービスを導入するタイミングとサインまとめ
- 売上や稼働率の低下が止まらない
販促施策を打っても改善の兆しが見えない場合、プロの視点が必要です。 - スタッフが定着しない/人材が育たない
育成・採用が思うようにいかず、オペレーションが不安定なままというケース。 - 日々の業務に追われて経営ができない
オーナーが「現場管理者」と化してしまい、本来の役割に専念できていない場合。 - 施設価値が年々下がっている
修繕・改修に手が回らず、築年数以上に評価が下がっているケースもあります。
こうした兆候は、事業としての「持続可能性」が危機にあるというサインです。「何とかなる」と放置していては、いざというときに大きな損失を被るリスクが高まります。より具体的に見ていきましょう。
サイン①:売上や稼働率の低下が長期化している
もっともわかりやすいサインが、稼働率の慢性的な低下です。観光需要や季節要因を差し引いても、明らかに競合施設よりも稼働率が低い、もしくは客室単価(ADR)が極端に落ち込んでいる場合は、戦略や運営体制に何らかの問題を抱えている可能性があります。
こうした状況を放置していると、固定費の圧迫によって収益性が悪化し、リニューアルや修繕などの必要投資も難しくなります。委託によってマーケティングや収益管理(レベニューマネジメント)を専門家に任せることで、状況を打開できる可能性があります。
サイン②:人材確保・育成が困難で、サービス品質が不安定
ホテル業において、スタッフの確保と定着は最大の課題の一つです。特に地方や人口減少エリアでは、フロント・清掃スタッフともに人手不足が常態化しており、オーナー自身がシフトに入って運営を回しているケースも少なくありません。
さらに、接客スキルやホスピタリティにばらつきがある場合、サービスの質がレビューに直結し、集客力にも悪影響を及ぼします。
外部委託では、マニュアル化された研修制度や、広域的な採用ネットワークを活用したスタッフ配置が可能なため、オペレーションの安定化につながります。
サイン③:オーナー自身が運営に疲弊している
「本来は経営に集中したいが、現場に張り付ききりになっている」「シフトの調整、スタッフ対応、トラブル処理で1日が終わってしまう」――こうした声は、ホテルオーナーから頻繁に聞かれるものです。
このような状況では、戦略的な判断や中長期の事業計画を立てる余裕がなくなり、現場対応に終始する「作業的経営」になってしまいます。これは結果として、施設の成長機会を逃すことにもつながります。
委託によって現場業務から解放されることで、オーナーは「経営者としての視点」を取り戻すことができ、将来的な出口戦略の検討や多店舗展開も視野に入れやすくなります。
サイン④:クレームやレビューの悪化が続いている
近年は、宿泊者のレビューが集客に大きく影響を与える時代です。レビューサイトやOTAの評価が3.0を下回るような状況が長期化している場合、サービスの質に問題があることが疑われます。
特に「スタッフの対応が悪い」「清掃が行き届いていない」といった指摘が多い場合、それは現場の疲弊や運営体制の限界を示すサインです。
こうした声を放置していると、新規客の獲得が難しくなるだけでなく、既存の顧客離れも進行します。外部委託では、CS(顧客満足度)向上のためのフィードバック体制や品質管理の仕組みが整っていることが多く、レビュー改善に直結しやすいというメリットがあります。
サイン⑤:将来の事業承継や売却を視野に入れている
事業としてのホテルを今後どのように扱っていくか――特に、相続や売却、事業譲渡を考えているオーナーにとっても、外部委託は大きな価値を持ちます。
なぜなら、安定した運営実績がある施設は、第三者にとっても「運用可能な収益資産」として評価されやすくなるからです。逆に、オーナー依存の状態で運営が属人化している場合、そのまま引き継ぐことは困難です。
運営を外部委託することは、ホテルの価値を“人に依存しない構造”に変える第一歩といえるでしょう。
判断に迷ったら、まずは「相談」から
外部委託の導入は大きな決断ですが、いきなりすべてを委ねる必要はありません。現状分析や改善提案、限定的な業務委託(たとえば清掃だけなど)から始めることも可能です。
まずは複数の運営会社とコンタクトを取り、自社にとって本当に必要な支援が何かを明らかにするところから始めるのがおすすめです。
運営代行の導入に迷った時は|決断するための3つの判断基準
外部委託に関心があっても、「本当に今、導入すべきか?」「自社にはまだ早いのではないか?」と迷っているオーナー・経営者は少なくありません。
実際、委託のタイミングや判断基準は施設ごとに異なり、一律の正解は存在しません。しかし、現場でよく見られる共通の“判断軸”を知ることで、自社の状況を客観的に見直すことができます。
ここでは、運営代行を導入するかどうかを考えるうえで押さえておきたい3つの視点を解説します。迷った時に立ち返るためのチェックポイントとして、ぜひ参考にしてください。
判断基準①:人材確保の状況
運営の根幹は「人」にあります。どんなに良い施設でも、接客品質や清掃管理が不十分であれば、リピーターは定着せず、口コミ評価も伸びません。
以下のような課題があれば、外部委託による人材戦略の見直しを検討する価値があります。
- 地域的にスタッフの採用が極めて困難
- トレーニングが属人的で接客にムラがある
- 外国人対応ができるスタッフがいない
- シフトが常にギリギリでサービスに余裕がない
優良な運営会社であれば、研修体制や全国規模での人材ネットワークを持っており、地域課題を超えた人材配置が可能になります。
判断基準②:収益性と稼働率
稼働率やADR(平均客室単価)は、ホテル経営における重要なKPIです。
例えば、稼働率が60%を下回っている場合、空室が多く、固定費に見合った売上が立っていない状態が続いていると考えられます。また、周辺の競合ホテルに比べて単価が安い、あるいはレビュー点数が極端に低い場合も要注意です。
運営会社は以下のような対策を講じることで、収益性を改善します。
- OTA戦略の最適化(複数チャネルの使い分け)
- 価格のリアルタイム調整(レベニューマネジメント)
- 地域イベントや季節需要を踏まえた販促
- サブスクリプション型や長期滞在プランの導入
外部委託によって、売上が1.3〜1.5倍に改善した事例も少なくありません。
判断基準③:自社の中長期戦略との整合性
ホテル運営を単なる「日々の業務」として捉えるのではなく、中長期的な経営資産としてどう活かすかという視点を持つことが重要です。
- 将来的にホテルを売却したい
- 不動産価値を維持・向上させたい
- 本業への集中や相続対策として運営から手を引きたい
こうした目的がある場合、外部委託は非常に有効な選択肢となります。なぜなら、安定した運営体制が整っている物件は、事業承継や不動産取引において高く評価されるからです。
ホテル運営代行・外部委託の導入フローとステップ
判断基準をクリアし、実際に外部委託を導入する際は、以下のようなステップで進めるとスムーズです。もしもオーナー自身で設定しにくい部分があれば、その辺りも含めてホテル運営代行業社に相談出してみることも良いでしょう。
ホテル運営代行|外部委託導入の流れ
- 課題の明確化と目標設定
現状を正しく把握し、「何を改善したいか」を明文化します。 - 複数社からの提案取得(RFP作成)
実績や対応範囲、料金体系などを比較するため、同条件での提案依頼が望ましいです。 - 面談・視察・過去事例の確認
実際の施設運営を見学し、現場対応力や風土をチェックします。 - 契約条件の擦り合わせ
KPI設定、責任分担、契約期間、解約条件などを明確に。 - 引き継ぎと現場調整
現スタッフとの連携や、運営体制のすり合わせを丁寧に行うことが成功の鍵です。 - 運営開始と定期レビュー
月次報告・定例会議を通じて、PDCAを回していくことが重要です。
委託後は任せっきりでなく、コミュニケーションを取ることが大切
そして ”外部委託をして終わり” ではありません。ホテル運営の外部委託を成功に導くには、「任せっぱなし」にしないことがポイントです。以下のようなポイントを押さえて、定期的な情報交換や改善が必要不可欠でしょう。
委託後の運営改善とモニタリングのポイント
- 月次の業績報告やKPI評価の共有
- 現場とのコミュニケーションを維持
- クレームやレビューをモニタリングし、定期的に改善策を協議
- 長期的には契約の見直しや再提案を受ける機会も持つ
外部委託は「経営のパートナーシップ」と捉え、信頼関係を築くことが大切です。気になる箇所があれば積極的に質問をし、オーナーとして末長くホテル経営ができる体制を整えていきましょう。
経営判断としての「外部委託」—失敗しないために
ホテル運営の外部委託は、単なる業務効率化の手段ではなく、経営資源の最適化を図る重要な戦略判断です。成功するためには、以下の点を忘れてはなりません。
- 単純な価格比較ではなく、「価値提供」の質で選ぶ
- 契約後も積極的に現場と関わり、関係性を構築する
- 自社のビジョンと委託先の方向性が一致しているかを常に確認する
自社運営が当たり前だった時代から、パートナーと協働する新たなフェーズへ。柔軟な発想と、変化を恐れない姿勢こそが、今後のホテル経営の持続可能性を高める鍵となります。ホテル経営でお悩みの方は一度東京財託へご相談ください。問題解決の糸口を一緒に探すことができるかもしれません。