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はじめに|「自分の持分だけでも整理できないか」と感じた方へ
民泊として運営されている不動産を、複数人で共有名義にしているケースは決して珍しいものではありません。投資目的や事業としてスタートし、当初は問題なく進んでいたものの、時間の経過とともに状況が変わり、「自分の持分だけでも整理できないだろうか」と考え始める方も少なくありません。
例えば、想定していたほど収益が出ていない、運営方針や費用負担について共有者との認識にズレが生じてきた、ライフステージや資金計画の変化によって民泊事業への関与を続けることが難しくなった、といった背景が挙げられます。
一方で、「民泊」「共有名義」「持分売却」といった条件が重なると、インターネット上でも体系的な情報は多くありません。調べれば調べるほど断片的な情報に触れ、不安や迷いが強くなってしまうケースも多いのが実情です。
本コラムでは、東京財託の実務的な視点から、民泊として利用されている共有名義不動産の持分売却を検討する際に、事前に理解しておくべきポイントを整理します。
「民泊の共有持分」について知っておいて欲しいこと

知識1|「民泊の共有持分」という制度があるわけではない
まず前提として押さえておきたいのは、「民泊の共有持分」という特別な権利や制度が存在するわけではない、という点です。法律上、登記上に存在するのは、あくまで不動産の共有持分です。
民泊かどうかは、その不動産がどのように利用されているか、どのような契約や許認可のもとで運営されているか、という「使われ方」の問題にすぎません。共有持分そのものの性質が、民泊であることによって変わることはありません。
《情報が見つかりにくい理由》
情報が見つかりにくい背景には、不動産法、共有、民泊制度といった複数の分野が重なっていることや、「民泊の共有持分」という言葉自体が専門的すぎることが影響しています。
この点が理解されていないと、「民泊だから特別に売れないのではないか」「共有名義だと何もできないのではないか」といった誤解が生じやすくなります。
知識2|民泊として使われている共有名義不動産は複雑になりやすい
不動産の共有名義自体は一般的な仕組みですが、民泊として利用されている場合、実務上は複雑になりやすい傾向があります。その理由を整理します。
・収益と不動産価値が運営状況に左右される
民泊は、稼働率や管理体制、許認可の状況によって収益性が大きく変わります。共有名義の場合、これらの判断や方針を自分一人で決めることはできず、他の共有者との合意が前提となります。
・利用停止や用途変更が簡単ではない
民泊運営には、行政手続き、管理契約、近隣対応などが関係しています。そのため、「もう関わりたくない」「一旦止めたい」と思っても、居住用不動産のように簡単に動かせない構造になっているケースも少なくありません。
・金銭面と人間関係の問題が同時に表面化しやすい
民泊は事業性を伴うため、収益や費用負担といった金銭面の問題と、人間関係の問題が同時に表に出やすい特徴があります。こうした状況は、特定の人の判断ミスや特殊な事情ではなく、構造的に起こりやすい問題だと言えます。
知識3|共有持分の売却は制度上可能である
不動産の共有持分は、法律上、他の共有者の同意がなくても売却することが可能です。これは民泊として利用されている不動産であっても同様です。
つまり、自分の持分だけを第三者に譲渡すること自体は、制度上認められています。ただし、ここで理解しておくべきなのは、「売却が可能であること」と「実務上、現実的に成立しやすいこと」は一致しない、という点です。
民泊物件の共有持分が抱える実務上の課題と選択肢

民泊として利用されている共有名義不動産の持分は、次のような理由から市場性が限定される傾向があります。
- 単独で自由に利用できない
- 居住用としての利用が想定しづらい
- 既存の共有者や運営体制との関係が前提となる
その結果、買い手が限られ、価格条件が厳しくなったり、売却までに時間を要したりするケースが見受けられます。
ここで重要なのは、売れるか売れないかという二択で考えるのではなく、「どのような条件であれば現実的に整理できるのか」を把握することです。
選択肢①他の共有者に売却する
共有者間で合意形成が可能であれば、比較的整理しやすい方法です。ただし、価格設定や条件については、感情的な対立を避けるためにも慎重な検討が求められます。共有者全員での話し合いが難しい場合には、弁護士への依頼も一つの方法となります。
選択肢②民泊運営を見直した上で整理する
用途変更や運営終了によって、売却の選択肢が広がるケースもあります。一方で、共有者全員の合意が前提となることが多く、現実的なハードルがある点には注意が必要です。
選択肢③共有持分整理を前提とした方法を検討する
状況によっては、共有持分の整理を専門的に扱う業者へ依頼することも検討されます。この場合も、条件やリスクを十分に理解した上で進める必要があります。
選択肢④現時点では判断を保留する
すぐに動かないという判断も、一つの選択肢です。ただし、その場合でも現状を正確に把握し、自分がなぜ判断を保留しているのかを理解しておくことが重要です。
民泊運営における許認可と持分売却の関係性

民泊として運営されている不動産の持分売却を検討する際には、許認可の問題を整理しておく必要があります。
住宅宿泊事業法に基づく届出の場合
住宅宿泊事業法に基づく民泊運営では、原則として住宅の所有者または管理権原を有する者が届出を行います。共有名義の場合、共有者全員の同意が求められるケースが一般的です。
持分を売却した場合、新たな共有者が加わることになりますが、既存の届出そのものが自動的に無効になるわけではありません。ただし、事業者としての立場や責任範囲については、事前に確認しておくことが重要です。
旅館業法に基づく許可の場合
旅館業法に基づく簡易宿所営業などの許可を得て運営している場合、許可の名義人が誰であるか、共有者との関係がどのように整理されているかによって、持分売却後の影響が異なります。
特に、許可の名義人が持分を売却する場合には、運営継続に影響が生じる可能性があるため、事前に慎重な検討が必要です。
特区民泊の場合
国家戦略特別区域法に基づく特区民泊の場合、認定事業者の要件や契約関係が複雑になることがあります。持分売却を検討する際には、認定要件への影響や、既存の事業スキームとの整合性を確認することが求められます。
民泊運営契約と持分売却をする際の注意点

①管理委託契約の扱い
民泊運営を管理会社に委託している場合、委託契約の当事者が誰であるか、持分売却によって契約関係にどのような影響が生じるかを確認する必要があります。
契約によっては、共有者の変更が契約解除事由や再契約の条件となっているケースもあるため、事前の確認が重要です。管理会社との対応においては、トラブルを避けるためにも慎重な手続きが求められます。
②収益分配の取り決め
共有者間で収益分配の取り決めがある場合、持分割合と収益分配の割合が一致していないケースも見受けられます。
持分を売却する際には、こうした取り決めが新しい共有者にも引き継がれるのか、それとも持分割合に応じた分配に変更されるのかを明確にしておく必要があります。
③費用負担の継続性
固定資産税、管理費、修繕費用などの負担についても、持分売却後の扱いを整理しておくことが求められます。特に、過去の未払い費用や将来的な修繕計画がある場合には、売却条件に影響する可能性があります。
持分整理を考え始めた際に行うべき4つのこと
検討初期の段階では、次の点を整理しておくことが重要です。
◼︎登記上の持分割合
まず確認すべきは、登記簿上の持分割合です。実際の出資割合や運営への関与度合いと、登記上の持分割合が異なるケースもあるため、現状を正確に把握することが第一歩となります。相続によって取得した持分の場合は、登記手続きが完了しているかも確認が必要です。
◼︎共有者間の契約や合意内容
口頭での合意や、メールでのやり取りなども含め、共有者間でどのような合意がなされているかを整理します。特に、収益分配、費用負担、意思決定の方法については、文書として残っているかどうかを確認することが重要です。
◼︎民泊運営の実態や収益構造
実際の稼働率、収益の推移、経費の内訳などを把握します。想定していた収益計画と現実のギャップがどの程度あるのかを数字で確認することで、持分の市場価値を判断する材料となります。
◼︎感情的な問題と事実関係を切り分ける視点
共有者との関係性や、これまでの経緯によって、感情的な問題と事実関係が混在しやすい状況があります。冷静に判断するためには、何が法律上の問題で、何が人間関係の問題なのかを切り分ける視点が必要です。
一人で抱え込まず、売却を前提としない形で専門家に相談することで、状況が整理され、次に取るべき選択肢が見えてくるケースも少なくありません。
持分売却を実行する際の5つのステップ
実際に持分売却を進める場合、一般的には次のようなプロセスを経ることになります。
| Step1 | 売却条件の整理 | まず、自分がどのような条件であれば売却を進めるのかを明確にします。価格だけでなく、売却時期、引き渡し条件、その後の運営への関与の有無なども含めて検討します。持分の処分方法についても、複数の選択肢を比較することが重要です。 |
| Step2 | 買い手候補の検討 | 共有者に売却する場合と、第三者に売却する場合では、交渉の進め方や条件設定が大きく異なります。それぞれのメリットを理解した上で、現実的な選択肢を絞り込みます。 |
| Step3 | 価格査定と交渉 | 共有持分の価格査定は、通常の不動産査定とは異なる視点が必要です。民泊運営の実態、許認可の状況、他の共有者との関係性なども考慮して、現実的な価格帯を設定します。土地の評価額や建物の状態も重要な判断材料となります。 |
| Step4 | 契約書の作成と確認 | 持分売却に関する契約書では、売却後の運営への関与、既存の合意事項の扱い、リスク分担などを明確にします。法律的な観点だけでなく、実務的な運用を見据えた内容にすることが重要です。 |
| Step5 | 登記手続きと引き渡し | 売買契約が成立した後、登記手続きを行い、持分の移転を完了させます。同時に、民泊運営に関する各種届出や契約の変更手続きが必要になる場合もあります。手続きには一定の費用が発生するため、事前に確認しておきましょう。 |
流れを知っておけば準備をスムーズに運ぶことができます。逆にこの流れの中で気になる点がある場合には、専門家の意見を聞いてみることもおすすめです。
まとめ|判断に迷った時点で整理を
民泊として運営されている共有名義不動産は、一般的な不動産と同じ感覚で判断すると、かえって問題が複雑化することがあります。「持分をどう扱うべきか」と感じた時点で、一度立ち止まり、情報と状況を整理することには十分な意味があります。
重要なのは、完璧な解決策を見つけることではなく、現状を正確に理解し、自分にとって最も納得できる選択肢を選ぶことです。時には、すぐに行動を起こさないという判断も、十分に合理的な選択となり得ます。
東京財託では、売却を前提としない段階からのご相談や、選択肢の整理を目的としたご相談にも対応しています。現状を正確に把握することが、将来的な判断を行う上での重要な土台となります。個人で判断をせず、ぜひ一度お気軽にご相談ください。