個人で所有しているアパートの売却を考えているけれど、「税金がどれくらいかかるのか不安」「できるだけ税金を抑えて売却したい」と悩んでいませんか?
今回は、そのような方に向けて個人所有のアパートを売却する際の税金知識や使える控除・特例について解説します。お得にアパートを売却したい人は、ぜひ参考にしてください。
アパートの売却にかかる税金
まず、アパートを売却した際にかかる税金の種類は譲渡所得税が該当します。
譲渡所得税とは、不動産を売却した際に得る譲渡所得に対してかかる税金であり、売却して出た利益が大きいほど納税額も高くなります。
事業所得や給与所得など、他の所得(収入)と合算して損益通算できない分離課税にあたり、売却で出た利益に対してそのまま課税されるため注意が必要です。
譲渡所得税の計算方法
譲渡所得税は以下の計算方法で算出できます。
そして譲渡所得税の課税対象となる譲渡所得は、以下のように算出します。
譲渡所得を算出する際の取得費用とは、過去にアパートを購入(取得)した時にかかった費用であり以下のような費用が該当します。
・土地・建物の購入代金(売買価格)
・仲介手数料
・登記費用
・立ち退き料
・測量費用
・管理費用
・保険料
物件を取得してから長期が経っている場合や相続で受け継いだ場合など、取得費用のエビデンスがない時は、概算取得費用として売却価格の5%を取得費用とすることができます。
取得費用が分からない場合でも、全く計上できないという訳ではないため注意しましょう。
また、取得費用に対して譲渡費用とは、物件を売却した際にかかる費用のことであり、以下のような費用が該当します。
・仲介手数料
・立ち退き料
・建物の解体費用(更地で売る場合)
・印紙税(売主負担の場合)
物件を購入した際の費用だけでなく、売却時の費用も利益から控除できるので、支払った費用の領収証や請求書は保管するようにしましょう。
譲渡所得税の税率
譲渡所得税を算出するための税率ですが、実は物件を取得してからの所有期間によって変わるので注意が必要です。
物件の所有期間が5年以内の場合は短期譲渡税、所有期間が5年を超える場合は長期譲渡税が以下の税率で課税されます。
短期譲渡税 | 30.63% |
長期譲渡税 | 15.315% |
不動産の過度な流通を抑えるためのルールですが、短期譲渡税の場合、税率が倍になってしまうので注意しましょう。
アパート売却時に使える控除・特例
ここでは、譲渡所得税を節税してお得にアパートを売却するために使える控除・特例を紹介します。税金を少しでも抑えられるよう、ぜひ以下の内容を参考にしてみてください。
特定事業用資産の買換え特例
特定事業用資産の買換え特例とは、個人が特定のエリア内で事業用不動産を売却し、一定期間内に他の事業用不動産を購入、事業用として利用した場合に利用できる制度です。この制度を利用することで、一定の条件を満たせば、譲渡益の一部に対する税金を将来に繰り延べることができます。税金の繰り延べなので非課税になる訳ではありませんが、売却益が想定よりも多く出てしまった場合などに有効な制度です。
詳しい要件については、以下の国税庁ホームページで確認してみてください。
【特別控除】平成21・22年取得の土地に使える1,000万円控除とは?
「平成21年及び平成22年に取得した土地等を譲渡したときの1,000万円の特別控除」という制度もアパート売却後の節税対策として利用できます。リーマンショック後にできた制度であり、平成21年中に取得した物件であれば平成27年以降、平成22年中に取得した場合は平成28年以降に売却することで利用可能です。期間に定めがあるため利用できる人は限定的ですが、要件を満たせば譲渡所得から1,000万円を控除できるため、大きな節税効果があります。
注意点としては、土地の流通性を保つために作られた制度であるため、あくまで土地部分の譲渡益にのみ控除が限定されることです。アパートなど、建物がある物件を1つの契約で取得している場合は、土地と建物の売買金額を区分し、土地の価格に対応してのみ1,000万円の特別控除を受けることができます。
土地と建物を区分する方法は、売買金額から土地価格の割合を算出するなどの方法がありますが、税理士や税務署に一度相談するのがおすすめです。
なお、これは法人においても適応ができます。資産管理会社など、法人名義で不動産を所有している読者の方は検討をしてみてください。
居住用不動産の特例は使えない
不動産を売却する場合に利用できる特例で、居住用不動産の3,000万円特別控除は有名ですが、収益用不動産に該当するアパートの売却時には使えないので注意しましょう。
アパートは人が住むための建物だから居住用ではないかと思うかも知れませんが、所有者からの目線で考えると収益用(投資用)に該当します。居住用不動産の特例は、家を売却したことがある人には認知度が高い制度ですが、アパート売却には残念ながら利用することができません。
アパート売却の流れ
はじめて不動産を売却する場合など、アパートを売る流れが分からないという人も多いでしょう。ここでは、アパート売却をスムーズに進めるために売却の流れを順番に解説します。
不動産会社に査定依頼を出す
不動産を売却する場合、まずは不動産会社に自分のアパートはいくらで売れるのか、査定依頼を出します。査定依頼の出し方は、実際に近くの不動産会社に足を運ぶ、電話で問い合わせする、ネット上から査定を申し込むなど、どんな方法でも問題ありません。1社や2社ではなく必ず複数の不動産会社に査定を依頼し、最も高い金額で売却できそうな会社に媒介を依頼します。
今ではネット上から不動産の一括査定が利用できるので、複数の会社を自分で問い合わせるのが面倒な場合は、ぜひ検討してみてください。
売出金額を決める
アパートの査定がすべての不動産会社から出そろった後は、売却を依頼する会社を選定し、実際に売り出す時の金額を相談し、決めていきます。周辺の相場や競合物件の有無などを考慮し、いくらであれば買い手が興味を持つのか、不動産会社任せにするのではなく、自分でも考えて決めることが大切です。
媒介契約を結ぶ
売出金額が決まると、その金額をもとに不動産会社と媒介契約を結びます。媒介契約とは、不動産会社に売却の依頼をするための契約であり、専属専任媒介契約、専任媒介契約、一般媒介契約の3種類があります。それぞれ契約内容が異なるので、3種類の契約内容を不動産会社から確認し、理解した上で契約を締結しましょう。
媒介契約を結ぶ際は、どのように売却活動を進めていくのか、自分の物件を売るための具体的な活動内容を確認することも大切です。
売却活動スタート
媒介契約を結んだ後は、実際に売却活動をスタートします。売主がやることはほとんどありませんが、内覧や現地確認の依頼があった場合には、立ち合いが必要になる場合もあります。買い手の反応がよく物件の申し込みがあった場合は、購入条件をよく確認し問題なければ契約に進みます。
売買契約を締結する
購入条件が合致する買い手が見つかった場合は、売買契約を締結します。売買契約では、売主と買主が契約内容をお互い確認し合った上で、双方問題なければ調印を行います。
それぞれ調印が終わり、買主からの手付金が確認できた時点で売買契約は完了します。
引き渡しを行う
契約後に行う測量や解体など、物件を引き渡すための条件が成就した後は、契約時に設定された日に残代金の支払いと物件の引き渡しを行います。引き渡し日には、買主に対して測量図や境界確認書、物件の鍵など必要物を交付し、問題なければ買主から残代金の支払いを受けます。残代金の着金確認をして、司法書士による所有権移転登記の手続きができた時点で引き渡しは完了となります。
引き渡しを受けた翌年には確定申告をする必要があるため、必要書類はしっかり保管しておきましょう。
アパートを高く売るポイント
最後に、アパート売却を考えている人に向けて物件を高く売るためのポイントについて解説します。
収益物件に当たるアパートは、マイホームなどの実需物件と売り方が異なるので、以下の内容をぜひ参考にしてください。
入居率が高いタイミングで売る
アパートを売却するタイミングは人それぞれではあるものの、可能な限り入居率が高い状態で売却した方が、高く売れる可能性は上がります。入居率が高いタイミングが売り時であるのは、アパートだけでなく収益用不動産すべてに共通しているポイントです。入居率が低い状態だと、次にオーナーになる人が購入してすぐに客付けを行う必要があるため、労力を考えて投資商品としての評価は下がりやすい傾向があります。
1室や2室程度の空室であれば部屋の中を見れるメリットがあるため、物件によっては喜ばれることもありますが、満室稼働の方が基本的に好印象です。
将来的な環境変化や地価の変動をリサーチする
不動産の価値は周辺エリアの将来的な環境変化や、それに伴う地価の変動によって大きく変わります。物件周辺で開発計画はないか、商業施設ができる計画はないか、公共交通機関の拡充は検討されていないかなど、アピールできることをしっかりリサーチしましょう。インターネットでの検索や役所での調査、不動産会社へのヒアリングなど、不動産に関わるエリアごとのリサーチをすることは高く売るためにとても大切なポイントです。
アパート物件は戸建と同じく価格に占める土地部分の割合が大きいため、リサーチした上で地価が上がる要素があれば、査定依頼をする際などにアピールすることができます。
引継ぎ書類をまとめておく
物件を第三者に賃貸しているアパートなどの収益物件は、次の買主への引き継ぐ書類が多いため、予めまとめておくことで買い手からの印象がよくなります。入居者と結んでいる賃貸借契約書など、次のオーナーに引き継ぐべき書類関係は、売却を検討する段階で綺麗にまとめておくことが大切です。収益物件を購入する場合、すでに物件を借りている入居者のことを気にする人は多くいます。
入居者の情報や賃貸借契約の内容などを買い手から確認された際に、書類がまとまっていないのは印象が悪いので、売却活動を始める前にチェックしておきましょう。
場合によっては土地として売却する
全部屋に入居者がいないケースなど、アパートとして全く稼働していない物件は、建物を壊して更地で売却した方が高く売れる場合もあります。アパートの戸数にもよりますが、収益物件として売却する場合、入居者がいない状態で売却するのはハードルが高いです。建物の状態がよく、修繕やリフォームなしで貸し出せる状態であれば収益物件として売却もありですが、そうでない場合は土地としての売却をおすすめします。
駅に近い、道路付けが良好など、条件の良い物件であれば土地として売却することで相場より高く売れるケースも多いです。
取得して5年以内だと税金が割高
先述したようにアパートを取得して5年以内の場合、短期譲渡税が適用されるため税金が割高になります。安定的に満室稼働している場合など、収益が問題なく生まれている状況であれば5年以内で売却してしまうと損をする可能性があります。
どうしても売却しないといけない理由があれば別ですが、アパートとして十分に働いてくれている場合は、5年以上保有してから売却するのがおすすめです。
まとめ
今回は、個人がアパートを売却する際の税金について、使える控除・特例やアパート売却の流れ、高く売るためのポイントを解説しました。
不動産を売却する上で税金のことを知ることはとても大切です。
収益用不動産であるアパートは、マイホームの売却と比べて使える控除や特例は少ないですが、少しでもお得に売却できるよう、今回の内容を参考にしてほしいと思います。